高橋たか子

「なぜ死ぬかって? 私を死なせる張本人のあなたが、なぜ死ぬかって訊ねるの?」 ** 「二十、二十一」  と、声が言った時、鳥居哲代は、何でも出来る――と自分に言い、織田薫を押した。  その時、鳥居哲代の内部で盛りあがり押さえられ盛りあがりしていたあの不快な力が、思いもかけない量をなして噴きでてきて、一瞬、それは快と感じられた。押した相手は織田薫でもあり自分自身でもあり誰か他の人でもあった気がした。鳥居哲代は自分を見つめてばかりいたので、織田薫がどういう格好をしたかを見なかった。  望んでいない。  と、鳥居哲代は言った。  望んでいる。  と、言いかえてみた。  望んでいないものを望んでいる、ということはあるのか。  と、さらに言った。  鳥居哲代はただ一人で戻りはじめた。歩行はのろく重たい。昏れてしまったとも昏れていないとも決めようのない曇天のなかを行く。 「火口の中はぱあっと明るい」  と、さっき無理に言わされたことを、今度は自分から言ってみた。